結論:シナリオプランニングと将来予測は「AIに当てさせる」ものではなく、前提・論点・複数の筋書きを言語化し、見落としを洗い出すための壁打ちにAIを使うのが2026年6月時点の実務解です。最終的な経営判断と責任は経営者が負います。
- 要点1:AIは「未来を予言する装置」ではなく、前提条件・不確実性・複数シナリオを整理するたたき台づくりの補助。出力は必ず人が吟味する。
- 要点2:使いどころは5つ —— ①前提と論点の言語化 ②シナリオ(楽観/基本/悲観)の洗い出しと比較 ③各シナリオのメリット・デメリット・リスク整理 ④反対意見・見落としの壁打ち ⑤決定後の説明・記録の下書き。
- 要点3:未公表の業績見通し・M&A情報・人事などの機微情報はAIに入れない。誤りや偏りが混じる前提で、公的統計や一次情報で裏取りする。
対象読者:不確実な事業環境で中期の方針を決める経営者・役員・経営企画。コンサル/外資金融/PE/事業会社のCxO志望者を含む。
今日やること:直近で決めかねている論点を1つ選び、本記事のステップ1のプロンプトで「前提・不確実性・論点」を3分でAIに棚卸しさせてみる。
「来期の前提、どう置けばいいですかね」——経営企画やCxO志望のハイクラス人材と話していると、シナリオプランニングまわりでいちばん多いのがこの悩みです。為替も金利も地政学も読み切れない。にもかかわらず、投資判断や人員計画は「ある前提」の上で決めなければいけない。
正直に言うと、ここで生成AIに過剰な期待をして失敗する人をよく見ます。「来年の景気どうなる?」とChatGPTに聞いて、それっぽい答えをそのまま会議資料に貼ってしまう、というやつです。AIは未来を当てられませんし、当てたように見える出力ほど危険です。
一方で、使いどころを限定すると一気に役に立ちます。「前提を言語化する」「複数の筋書きを並べる」「自分が見落としている反対側の論点を出させる」——この壁打ち用途では、AIは優秀な思考の整理係になります。BCGやマッキンゼーのコンサルタントがホワイトボードでやっている作業の、最初のたたき台部分を肩代わりさせるイメージです。
この記事では、経営のシナリオプランニング・将来予測の整理に生成AIをどう組み込むかを、7ステップとコピペ可能なプロンプトで解説します。なお本記事は一般化した実務手順の解説であり、登場する数値や進め方は想定モデルケース(試算・目安)です。最終判断と責任は経営者が負う前提で読み進めてください。
そもそもシナリオプランニングとは|「予測」と「シナリオ」は違う
まず言葉の整理から。シナリオプランニング(シナリオ分析)と、いわゆる「将来予測」は似て非なるものです。ここを混同すると、AIの使い方も間違えます。
将来予測(forecast)は、「最も起こりそうな1本の未来」を当てにいくアプローチです。来期の売上見通し、為替レンジの想定などがこれにあたります。シナリオプランニングは逆で、「当てにいかない」。複数の起こりうる筋書き(典型的には楽観・基本・悲観の3本)を並べ、それぞれで自社がどう動くかを先に考えておく手法です。
不確実性が高いほど、1本を当てにいく予測は外れます。だからこそ大手戦略コンサルや中央銀行は、複数シナリオを前提に意思決定を組み立てます。日本銀行の「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」が、メインシナリオに加えて上振れ・下振れリスクを併記しているのも同じ発想です(出典は記事末)。
生成AIが効くのは、この「複数の筋書きを言語化し、抜けを潰す」作業のたたき台です。AIに1本の未来を当てさせるのではなく、「どんな不確実性があり、どんな筋書きがありうるか」を網羅的に出させる。ここが本記事の一貫した立場です。
なぜいま経営判断にAIを「壁打ち」として使うのか
理由はシンプルで、経営者が向き合う不確実性が、人間ひとりの頭で並列処理できる量を超えているからです。
IMFの「世界経済見通し(World Economic Outlook)」や内閣府の「月例経済報告」を見ても、前提となるマクロ環境は四半期ごとに書き換わります(出典は記事末)。為替・金利・サプライチェーン・規制・人材市場——変数が多すぎて、「どの前提が崩れたら、どの判断を見直すべきか」を人間が漏れなく追うのは難しい。
ここで生成AIを壁打ち相手として置くと、変数の洗い出しと、組み合わせの整理を高速で回せます。経営の意思決定そのものをAIに支えてもらう発想は、本媒体の役員・経営層のAI活用5原則でも基本に据えています。シナリオプランニングは、その「壁打ち」を最も活かしやすい領域のひとつです。
ただし——ここは強調しておきます。AIの提案には誤りや偏りが混じります。学習データの偏り、もっともらしいが根拠のない断定、古い情報の混入。AIは結論を保証しませんし、責任も負いません。出力はあくまで「人が吟味するためのたたき台」です。AIの結論を鵜呑みにした時点で、シナリオプランニングの意味は失われます。
始める前に|AIに入れていい情報・ダメな情報
手順に入る前に、ガードレールを先に置きます。これを飛ばすと事故ります。
AIに入れてはいけない情報の例:
- 未公表の業績見通し・決算数値(インサイダー情報になりうる)
- 検討中のM&A・資本提携・事業売却の具体情報
- 個人を特定できる人事情報、取引先との非開示契約に関わる内容
- 顧客の個人情報(氏名・連絡先など)
安全に使うための原則:
- 具体名・実数は一般化・ぼかして入れる(「売上◯◯億円のBtoB製造業」程度の粒度に抽象化)
- 会社の利用ポリシー・コンプライアンス規程に従う。法人プランやデータ学習をオフにできる設定を確認する
- 出てきた数値・固有名詞は、内閣府・日銀・公的統計などの一次情報で必ず裏取りする
機微情報の扱いを含む役員のAIリテラシーは、役員・経営層のAI活用5原則に一通りまとめています。判断材料の前提を固める意味では、中期経営計画・事業計画をAIで策定するステップもあわせて読むと、シナリオと計画の接続が見えてきます。
シナリオプランニングをAIで支える7ステップ
ここからが本題です。以下は想定モデルケースに基づく一般化手順です。各ステップにコピペで使えるプロンプト例を載せます。プロンプト内の機微情報は安全な抽象表現に置き換えてあります。
- 論点と決めるべきことの言語化:まず「何を決めるための分析か」を1文に絞る。AIに前提・制約・不確実性を棚卸しさせ、論点を構造化する。
- ドライビングフォース(変数)の洗い出し:結果を左右する外部要因(需要・金利・規制・技術・競合など)を網羅的に列挙させ、影響度×不確実性で並べ替える。
- 2軸の決定:影響度が高く不確実性も高い変数を2つ選び、シナリオを描くための軸(例:需要の伸び × 規制の厳しさ)にする。
- 複数シナリオの生成:2軸の組み合わせから、楽観・基本・悲観を含む3〜4本の筋書きを書き出させる。各シナリオに名前と1段落の物語を付ける。
- 各シナリオの比較:シナリオごとのメリット・デメリット・自社へのリスク・必要な打ち手を表形式で整理させる。
- 反対意見・見落としの壁打ち:「この分析の弱点・盲点・過度に楽観的な前提」をAIに批判させる。自分の思い込みを外す工程。
- 決定後の説明・記録の下書き:採用したシナリオと判断理由、トリガー指標(どうなったら見直すか)を、社内説明用に文章化させる。
このうち最初の3ステップ(論点整理・変数洗い出し・軸決め)が、AIの貢献度が最も高いところです。逆にステップ4以降は、AIのたたき台を人が必ず上書きする前提で進めてください。

ステップ1のプロンプト例:論点と前提の棚卸し
あなたは経営企画の壁打ち相手です。以下の意思決定について、
私が決めるべきことを1文に整理し、その判断を左右する「前提」
「制約」「不確実性」を箇条書きで洗い出してください。
# 状況(一般化して記載)
- 業種:BtoB製造業(売上規模は中堅)
- 検討中の判断:今後2〜3年の設備投資を増やすか、抑えるか
- 現状の懸念:需要の先行き、原材料コスト、人手不足
# 出力ルール
- 事実と推測を分け、推測には「仮定」と明記してください
- 不足している情報があれば、最初に質問してください
- 数値や固有名詞を使う場合は、根拠の有無を添えてください
- これは私の最終判断のためのたたき台です。断定はしないでください
ステップ2〜4のプロンプト例:変数の洗い出しとシナリオ生成
先ほどの論点について、結果を左右する外部要因(変数)を
できるだけ網羅的に列挙し、それぞれ「影響度(大中小)」と
「不確実性(高中低)」を仮に評価してください。
その上で、影響度が高く不確実性も高い変数を2つ選び、
それを2軸として、楽観・基本・悲観を含む3〜4本のシナリオを
作ってください。各シナリオには名前と、起こりうる筋書きを
1段落で付けてください。
- 評価は「仮の見立て」であることを明記してください
- 私が見落としていそうな変数があれば指摘してください
ステップ6のプロンプト例:自分の分析を批判させる
ここまで私とあなたで作ったシナリオ分析に対して、
あえて辛口の批判をしてください。
- 過度に楽観的・悲観的な前提はどこか
- 重要なのに抜けている変数・リスクはないか
- 「基本シナリオ」に引っ張られすぎていないか
- 反対の立場の人なら、どこを突いてくるか
批判はあくまで私の思考の盲点を洗い出すためのものです。
最終判断は私が行います。
新しい打ち手を検討する局面なら、新規事業開発をAIで加速するステップのアイデア発散プロンプトと組み合わせると、シナリオごとの「打ち手の引き出し」が増えます。
シナリオから「決め方」へ|ポートフォリオ判断との接続
シナリオを並べただけでは経営判断になりません。重要なのは「どのシナリオでも生き残る打ち手は何か」「どのシナリオに賭けるか」を決めることです。
実務では、各シナリオ下での事業ごとのリターンとリスクを並べ、撤退・縮小・維持・投資を仕分けていきます。この「選択と集中」の整理にもAIは使えます。具体的な進め方は事業ポートフォリオと選択と集中をAIで整理するステップにまとめていますが、シナリオプランニングとセットで回すと、「悲観シナリオでも残すべきコア事業」が浮かび上がってきます。
ここでも原則は同じです。AIが出した「投資すべき」「撤退すべき」という結論は、判断材料の一案にすぎません。人・資本・タイミングの最終判断は、社内の文脈とコミットメントを知る経営者にしかできません。AIは選択肢と論点を漏れなく並べる役、決めるのは人、という分業を崩さないでください。
【要注意】よくある失敗パターンと回避策
失敗1:AIに「未来を予測させる」
❌「2027年の景気はどうなりますか?」と聞いて答えを資料化する
⭕「2027年に向けて、どんな不確実性があり、どんな筋書きがありうるか」を洗い出させ、自分で確からしさを判断する
なぜ重要か:AIは未来を当てられません。当てたように見える出力は、学習データ内の平均的な見解か、もっともらしい作話です。予測の道具ではなく、論点整理の道具として使うのが鉄則です。
失敗2:出力をそのまま会議資料にする
❌ AIが出したシナリオと数字を無検証で経営会議に提出する
⭕ マクロ前提は内閣府・日銀・公的統計で裏取りし、自社の文脈で上書きしてから使う
なぜ重要か:AIの数値や固有名詞には誤りや古い情報が混じります。一次情報での裏取りを省くと、誤った前提の上に経営判断を積み上げることになります。
失敗3:基本シナリオに思考が引っ張られる
❌「たぶんこうなるだろう」という基本シナリオばかり精緻化する
⭕ 悲観シナリオの打ち手を必ず1本は具体化し、トリガー指標を決めておく
なぜ重要か:シナリオプランニングの価値は「悪い方に転んだとき、慌てず動けること」にあります。AIにあえて悲観側を深掘りさせ、人間の希望的観測を外す工程を入れてください。
失敗4:機微情報を入れてしまう
❌ 未公表の業績見通しやM&A情報を具体的に入力する
⭕ 数値・固有名詞は抽象化し、社内ポリシーとデータ取り扱い設定を確認したうえで使う
なぜ重要か:情報管理は経営の信用に直結します。便利さと引き換えに機微情報を渡さない。この一線は崩さないでください。
意思決定の「壁打ち」全体像と、シナリオの位置づけ
シナリオプランニングは、経営の意思決定支援という大きなテーマの一部です。論点整理・選択肢比較・反対意見の洗い出しといった壁打ちの基本動作は、投資判断でも組織判断でも共通します。
大切なのは、AIを「考える代わり」ではなく「考えを整える相棒」として使うこと。HBRの意思決定に関する議論でも繰り返し指摘されるのは、ツールの精度以上に「意思決定者がどう問いを立て、どう吟味するか」が結果を分けるという点です(出典は記事末)。AIはその問いを立てる前の、論点と選択肢の棚卸しを高速化してくれる存在です。
よくある質問(FAQ)
Q1. シナリオプランニングと将来予測は何が違いますか?
将来予測は「最も起こりそうな1本の未来」を当てにいくアプローチ、シナリオプランニングは「複数の起こりうる筋書きを並べ、それぞれで自社の動き方を準備しておく」アプローチです。不確実性が高い局面ではシナリオ型が有効です。AIは後者の「筋書きの洗い出し」の補助に向いています。
Q2. AIは将来予測を当てられますか?
当てられません。生成AIは未来を予言する装置ではなく、過去の情報をもとに文章を生成する道具です。予測を求めるのではなく、前提・変数・複数シナリオの整理に使い、確からしさは人が公的統計などで判断してください。
Q3. 機微な経営情報をAIに入れても大丈夫ですか?
未公表の業績見通し・M&A情報・個人を特定できる人事情報などは入れないでください。数値や固有名詞は抽象化し、会社の利用ポリシー・コンプライアンス規程に従ったうえで利用してください。データの取り扱いは各サービスの最新の規約・設定を必ず確認してください。
Q4. どのAIツールを使えばいいですか?
本記事の用途(論点整理・壁打ち)は特定ツールに依存しません。法人向けにデータ管理が整ったプランを、自社のセキュリティ要件に照らして選んでください。最終的なツール選定とリスク評価は、情報システム部門やセキュリティ担当と相談して判断してください。
Q5. AIの出力をどこまで経営判断に使っていいですか?
AIの出力は「たたき台・論点の一案」までです。最終的な経営判断と、その結果に対する責任は経営者が負います。AIは結論を保証せず、誤りや偏りを含む前提で、一次情報での裏取りと人による吟味を必ず行ってください。
まとめ:今日から始める3つのアクション
- 今日:決めかねている論点を1つ選び、ステップ1のプロンプトで「前提・制約・不確実性」をAIに棚卸しさせる。
- 今週中:影響度×不確実性で変数を整理し、2軸を決めて楽観・基本・悲観の3シナリオをたたき台として作る。
- 今月中:悲観シナリオの打ち手とトリガー指標を1本具体化し、一次情報で前提を裏取りしてから経営会議の議題にする。
AIは未来を当ててくれません。けれど、未来の不確実性を見える化し、考え漏れを潰す壁打ち相手としては、これ以上ない相棒になります。決めるのは、あくまであなたです。
著者:佐藤傑(さとう・すぐる)。株式会社Uravation代表取締役。X(@SuguruKun_ai)フォロワー約10万人。100社以上の企業向けAI研修・導入支援を展開。著書『AIエージェント仕事術』(SBクリエイティブ)、SoftBank IT連載執筆。
出典
- 日本銀行「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」
- 内閣府「月例経済報告」
- 日本総合研究所「経済・政策レポート(経済見通し)」
- Harvard Business Review「Decision Making and Problem Solving」
- 総務省統計局(統計データ)
- Anthropic「Research」
※ 本記事は2026年6月時点の情報に基づく一般化した実務手順の解説です。登場する数値・進め方は想定モデルケース(試算・目安)であり、特定企業の実測値ではありません。AIの提案には誤りや偏りが含まれます。最終的な経営判断とその責任は経営者が負い、AIは思考の整理・壁打ち・たたき台の補助に限定されます。制度・ツールの仕様や規約は変動するため、利用前に各公式情報をご確認ください。