【2026年最新】事業ポートフォリオと選択と集中をAIで整理する7ステップ
結論:複数事業を抱える経営層にとって、事業ポートフォリオの整理と「選択と集中」の意思決定は、生成AIを「観点出し・可視化・たたき台づくり」の補助として使うことで、議論のスタート地点を一気に引き上げられます。ただし、伸ばす・たたむ・撤退するという最終判断は経営者が責任を持ち、AIの整理を鵜呑みにせず実データと現場の声で検証する——これが大前提です。
この記事の要点:
- 各事業を「成長性×収益性×シナジー×自社の強み」で評価する軸を、AIで抜け漏れなく洗い出す
- PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)などのマトリクスで全体像を可視化し、伸ばす/維持/見直す/撤退の方向性を整理する
- 撤退・縮小は雇用・取引先・ブランドへの影響が大きく、機械的に決めない。AIは影響の論点出しまで
対象読者:複数の事業・サービスを抱え、限られた経営資源をどこに振り向けるか悩んでいる経営者・役員・経営企画責任者。
今日できること:自社の事業を一覧化し、評価軸のたたき台をAIで作り、次の経営会議の議論用マトリクスの「ドラフト」を1枚作るところまで。
「儲かっている事業」と「儲かっていない事業」の区別なら、誰でもなんとなく分かります。でも経営者が本当に悩むのはそこではありません。「今は赤字だけど将来の柱になるかもしれない事業」「黒字だけど成長が止まっている事業」「本業とのシナジーで持っている事業」——こういう微妙な事業をどう扱うか。伸ばすのか、現状維持なのか、見直すのか、それともたたむのか。この判断こそが、経営層の腕の見せ所です。
私自身、複数のサービスラインを並行して回す中で、「全部を平等に大事にしていると、結局どれも中途半端になる」という痛みを何度も味わってきました。リソースは有限です。人も、お金も、自分の時間も。だからこそ「選択と集中」が要るわけですが、いざやろうとすると、評価軸の整理だけで何日もかかる。ここで生成AIが効きます。AIは決めてくれませんが、「決めるための材料を素早く並べる」のは得意です。
この記事では、事業ポートフォリオの評価と「選択と集中」の意思決定を、生成AIで効率化する実務手順を、プロンプト例つきで整理します。2026年6月時点の考え方として読んでください。

事業ポートフォリオと「選択と集中」とは何か——まず前提を揃える
事業ポートフォリオとは、自社が抱える複数の事業・製品・サービスの「組み合わせ」全体のことです。投資のポートフォリオと同じで、個々の事業を単体で見るのではなく、全体としてバランスが取れているか、リソースの配分が適切かを問うのがポイントです。
「選択と集中」は、その全体像を踏まえて、伸ばす事業に経営資源を厚く配分し、見込みの薄い事業からは資源を引き上げる(縮小・撤退する)という経営の基本方針を指します。言葉としてはシンプルですが、実務では「どれを伸ばし、どれをたたむか」の線引きが極めて難しい。なぜなら、ひとつの事業の縮小・撤退は、そこで働く従業員、取引先、これまで築いてきたブランドや顧客との関係に直接影響するからです。数字だけで機械的に決められるものではありません。
ここで強調しておきたいのは、生成AIの役割の限界です。AIは過去のフレームワークや一般論をもとに「観点」を素早く出し、情報を整理することはできます。しかし、自社固有の事情、現場の肌感覚、取引先との長年の信頼関係といった「数字に表れない要素」は理解していません。事業の存続・撤退・投資配分の最終判断は、経営者が責任を持って行うものであり、AIが出した整理は「たたき台」として扱い、必ず実データと現場の声で検証してください。PPMをはじめとするフレームワークも、思考を整理する補助線にすぎず、万能ではありません。
事業を評価する4つの軸——AIで観点を洗い出す
事業ポートフォリオを整理する第一歩は、各事業を共通のものさしで評価することです。代表的な評価軸は次の4つです。
- 成長性:その事業が属する市場は伸びているか。今後の需要拡大が見込めるか。
- 収益性:利益率・キャッシュフローはどうか。投下資本に対するリターンは見合っているか。
- シナジー:他の事業や本業と相乗効果があるか。顧客基盤・販路・ノウハウを共有できるか。
- 自社の強み(競争優位):その市場で勝てる独自性があるか。模倣されにくい資産を持っているか。
この4軸を、自社の事業ごとに埋めていきます。とはいえ、いざ書き出すと「ある事業については成長性の論点が抜けていた」「シナジーを過大評価していた」といった抜け漏れが起きがちです。ここでAIに観点出しを手伝ってもらいます。
ただし注意点として、未公表の事業別売上・利益などの機微な数値や、取引先名・顧客名といった非公開情報を、外部のAIサービスに入力しないでください。AIには「業種」「市場の一般的な傾向」「評価したい軸」といった抽象度の高い情報だけを渡し、具体的な自社数値は手元で当てはめる運用にします。
観点を洗い出すためのプロンプト例です。
あなたは事業戦略のアドバイザーです。製造業の中堅企業が、複数の事業を「成長性・収益性・シナジー・自社の強み」の4軸で評価しようとしています。それぞれの軸について、経営者が見落としがちなサブ観点(チェックすべき問い)を5つずつ挙げてください。一般論で構いません。具体的な数値や企業名は不要です。
こうして得たサブ観点のリストを「評価のチェックシート」として使い、自社の各事業に当てはめていきます。AIが出した観点をそのまま採用するのではなく、「この観点は自社には関係ない」「むしろこの軸が重要だ」と取捨選択するのが経営者の仕事です。
事業をマトリクスで可視化する——PPMの観点出しにAIを使う
評価軸が揃ったら、次は全体像の可視化です。よく使われるのがPPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)の考え方です。市場成長率と相対的な市場シェア(自社の強さ)の2軸で各事業を4象限に分類し、「花形」「金のなる木」「問題児」「負け犬」といったポジションに位置づけます。
PPMはあくまで思考の補助線です。実際の経営では2軸だけでは語れない要素が多く、たとえば「赤字でもブランドの象徴として残す事業」「シナジーの結節点として持つ事業」など、マトリクスの分類だけでは結論が出ないケースが大半です。PPMの象限はラベルであって、意思決定そのものではない——この距離感を保つことが大切です。
AIには、可視化のための「整理のたたき台づくり」と「象限の解釈の論点出し」を任せます。プロンプト例です。
以下は架空の事業ポートフォリオの整理例です。市場成長率(高い/低い)と自社の競争力(強い/弱い)の2軸で、A〜Dの事業を4象限に分類した表のたたき台を作ってください。各象限について「一般的にどんな打ち手の選択肢があるか」「ただし機械的に判断してはいけない注意点」を、それぞれ箇条書きで添えてください。
(※自社の実データは入力せず、まずフォーマットだけ作る)
得られた表のフォーマットに、自社の事業を当てはめます。このとき、AIが「負け犬だから撤退」と短絡的に言いがちな部分には特に注意してください。象限はきっかけにすぎず、「なぜこの位置なのか」「本当にそうか」を現場のデータで検証するのが本筋です。
伸ばす/維持/見直す/撤退の方向性を整理する7ステップ
ここからが「選択と集中」の本丸です。評価軸とマトリクスをもとに、各事業の方向性を「伸ばす(強化)/維持/見直す(改善)/撤退(縮小)」の4つに仕分けていきます。AIを補助に使いながら進める手順を、7ステップで整理します。手順そのものは経営者が回し、AIは各ステップの「論点出し」「整理」「文章化」を担う、という役割分担です。
- 事業の一覧化:自社の事業・サービスをすべて書き出し、おおまかな規模感(売上・人員)を手元で並べる。この段階の機微な数値はAIに入れない。
- 評価軸の確定:前述の4軸(成長性・収益性・シナジー・強み)に、自社特有の軸(社会的意義、撤退コストなど)を加えるかをAIと論点整理しながら決める。
- 各事業のスコアリング(手元で):確定した軸で各事業を評価。スコアは経営者・経営企画が実データで付ける。
- マトリクスでの可視化:PPM等の2軸マトリクスに配置し、全体のバランスを俯瞰する。AIには表の整形と象限解釈の論点出しを依頼。
- 方向性のドラフト:各事業を「伸ばす/維持/見直す/撤退」に仮置きする。AIに「この仮置きで見落としている反論はないか」を出させ、自分の判断を叩く。
- 影響と前提の検証:仮置きした方向性について、撤退・縮小なら雇用・取引先・ブランドへの影響を、強化なら必要投資と回収見込みを洗い出す。AIは論点の網羅に使い、結論は人が出す。
- 経営会議用の資料化と合意形成:ここまでの整理を1枚の方向性マップにまとめ、役員間で議論する。AIは文章化・要約・想定問答の準備を補助。
ステップ5の「自分の判断を叩く」プロンプト例です。
私はある事業を「撤退候補」と仮置きしました。撤退候補とする際に、経営者がつい見落としがちな反論・リスク・代替案を10個挙げてください。たとえば「他事業とのシナジーで実は本業を支えている」「撤退コストが想定より大きい」などの観点を含めて。一般論で構いません。
AIにわざと「反対の立場」を取らせることで、自分の思い込みを点検できます。これはAIの使い方として非常に相性がよく、結論を出させるのではなく「結論を疑わせる」のがコツです。
撤退・縮小の判断は機械的に決めない——影響を整理する
ポートフォリオ整理で最も慎重を要するのが、撤退・縮小の判断です。数字だけ見れば「撤退すべき」と出る事業でも、実際には次のような重い影響が伴います。
- 雇用への影響:そこで働く従業員の配置転換・処遇。長年その事業を支えてきた人材のモチベーションと信頼。
- 取引先への影響:継続的に取引してきたサプライヤー・販売先との関係。突然の撤退は信用を損ない、他事業にも波及しうる。
- ブランド・顧客への影響:その事業のユーザーやファン。「あの会社は事業を簡単に切る」という評判が立つリスク。
- 撤退コスト:契約解消、設備処分、原状回復など、撤退そのものにかかる費用と時間。
これらは「数字に表れにくいが経営判断を左右する要素」です。だからこそ、AIに「撤退の影響として検討すべき論点」を網羅的に出させ、抜け漏れを防ぐ使い方が有効です。一方で、それぞれの影響の重み付けと最終判断は、現場・人事・取引先の実情を知る経営者にしかできません。AIの出力を「決定」ではなく「チェックリスト」として扱ってください。
影響整理のプロンプト例です。
ある事業の縮小・撤退を検討する際に、経営者が事前に整理しておくべき「影響の論点」を、(1)従業員・雇用 (2)取引先・サプライチェーン (3)顧客・ブランド (4)財務・撤退コスト (5)既存の他事業への波及、の5カテゴリに分けて、それぞれチェックすべき問いを挙げてください。判断は私が行うので、論点の洗い出しに徹してください。
あわせて、撤退を決めた後の「丁寧な進め方」——従業員への説明、取引先への事前通知、顧客への移行案内などの段取りも、AIに文面のたたき台を作らせると効率的です。ただし、最終的な伝え方・タイミングは、相手との関係性を踏まえて人が判断します。
経営資源の再配分——「集中」の中身を設計する
「選択」の裏側にあるのが「集中」、つまり生み出した余力をどこに振り向けるかという再配分の設計です。撤退・縮小で浮いた人材・資金・経営の時間を、伸ばすと決めた事業に厚く配分してこそ、ポートフォリオの組み替えに意味が出ます。ここを曖昧にすると、「縮小はしたが、その分が成長事業に回らず、ただ縮んだだけ」になりかねません。
再配分を考える際の論点は、たとえば次のようなものです。
- 人材:縮小事業の人材を、成長事業でどう活かすか。リスキリングは必要か。
- 資金:投資余力をどの事業に、どれだけ、どのタイミングで配分するか。
- 経営の時間:経営層の関与時間(会議・意思決定の頻度)を、どの事業に厚くするか。
- 組織:成長事業に権限・人員を集めるための組織変更は必要か。
これらの論点整理にもAIが使えます。プロンプト例です。
事業ポートフォリオの組み替えで、ある事業を縮小し、別の成長事業へ経営資源を集中させたいと考えています。「人材・資金・経営の時間・組織」の4つの観点で、再配分を設計する際に検討すべき項目と、よくある失敗パターンを整理してください。一般論で構いません。
再配分の設計は、組織や人員計画とも密接に関わります。事業の方向性が決まったら、それに合う組織の形や予算の置き方まで一気通貫で考えると、絵に描いた餅になりません。なお、こうした計画づくりの全体像は中期経営計画・事業計画をAIで策定する手順とあわせて考えると、ポートフォリオ整理が単発で終わらず、中期の経営方針に接続できます。
よくある失敗パターンと対策
AIを使った事業ポートフォリオ整理で、私や周囲が陥りがちな失敗を挙げておきます。
❌ AIの分類を「結論」として受け取る
⭕ AIの「負け犬だから撤退」という出力は、あくまで一般論のラベル。自社の文脈で「本当にそうか」を必ず検証する。象限は議論の出発点であって、答えではない。
❌ 未公表の事業数値をそのままAIに入力する
⭕ 事業別の機微な売上・利益、取引先名は外部AIに入れない。抽象度の高い情報だけを渡し、具体的な数字は手元で当てはめる。
❌ 「選択」だけして「集中」を設計しない
⭕ 縮小で浮いた資源の再配分先を、人材・資金・時間・組織の観点でセットで決める。切るだけでは縮むだけになる。
❌ 撤退を数字だけで機械的に決める
⭕ 雇用・取引先・ブランドへの影響を論点として洗い出し、重み付けと最終判断は経営者が責任を持って行う。AIは網羅性の担保まで。
意思決定の質そのものを上げる工夫は、ポートフォリオに限らず役員業務全般で効きます。AIを壁打ち相手として使う考え方は、役員・経営層のAI活用5原則で整理しているので、情報漏洩対策とあわせて確認しておくと安心です。
まとめ——AIは「決める」ためでなく「決めやすくする」ために
事業ポートフォリオの整理と「選択と集中」は、経営者が逃げられない難しい意思決定です。生成AIは、その難しさを肩代わりしてはくれません。けれども、評価軸の洗い出し、マトリクスでの可視化、撤退の影響整理、再配分の論点出しといった「材料づくり」を高速化することで、議論のスタート地点を確実に引き上げてくれます。
大事なのは、AIの出力を「たたき台」「チェックリスト」「反論役」として使い、最終判断は実データと現場の声で検証して経営者が責任を持って下すこと。フレームワークもAIも、思考の補助線にすぎません。この線引きさえ守れば、AIはポートフォリオ整理の頼れる相棒になります。まずは自社の事業を一覧化し、評価軸のたたき台を1枚作るところから始めてみてください。
著者プロフィール
佐藤傑(さとう・すぐる)。株式会社Uravation代表取締役。X(@SuguruKun_ai)フォロワー約10万人。100社以上の企業向けAI研修・導入支援に携わる。著書『AIエージェント仕事術』(SBクリエイティブ)。経営層・役員のAI活用、意思決定支援を専門に発信している。
次のアクション
- 自社の事業を一覧化する:まず全事業を書き出し、4軸(成長性・収益性・シナジー・強み)の評価シートのたたき台をAIで作る。
- 経営会議用のマトリクスを1枚作る:PPM等の2軸で全体像を可視化し、伸ばす/維持/見直す/撤退の仮置きを叩く。
- 撤退候補の影響を論点整理する:雇用・取引先・ブランド・撤退コストのチェックリストをAIで洗い出し、判断材料を揃える。
次回予告:整理した事業の方向性を、組織と人員計画にどう落とし込むか。ポートフォリオの組み替えに合わせた組織設計をAIで考える実務を取り上げます。